シンポジウム(第2回) / 研究成果報告-抄録
研究成果報告-抄録

歯の喪失シミュレーション

池邉一典1、野崎一徳2、佐藤仁美1、三原佑介1、松田謙一1、髙橋利士1
1.大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野

2.大阪大学歯学部附属病院医療情報室

 

我々はこれまで、当科の臨床データから、パーシャルデンチャーの鉤歯は他の歯に比べて喪失しやすく、その中でも、歯周病、失活歯、そして定期検診の未受診は、歯の喪失の危険因子であることを示した。しかし、上下歯列全体を考えると、歯の欠損パターンはあまりにもバリエーションが多く(228≒2.7億とおり)、歯がどんな順番で失われていくかを予測することは容易ではない。
そこで本研究では、まず現在の欠損パターンから今後の欠損パターンを予測するために、横断研究データから妥当な数の歯列情報とそこから得られる対合歯と隣接歯情報を組み込んだ歯の喪失の数理モデルを構築した。次に、与えられた初期の欠損パターンが辿る歯の喪失コースのシミュレーションをおこなった。さらに、縦断研究データから、構築したシミュレーションの評価を行い、一定の精度で実際の生体現象と一致することが示された。

 

 

三次元歯列模型のデータベース化とその活用に関する研究

山城 隆、谷川千尋
大阪大学大学院歯学研究科顎顔面口腔矯正学教室

 

矯正歯科臨床において歯および歯列形態を観察し、その問題を抽出することは治療計画を立案する上で、非常に重要である。そこで、本研究の目的は、三次元デジタル模型データより、歯種の判定に加え、矯正学的問題を自動抽出するAIシステムを構築することにある。当院矯正科に来院した患者の三次元デジタル模型データベースを、口腔内スキャナ(デンツプライ社セレックオムニカム)を用いて構築した。上顎歯列データより、上顎中切歯と上顎第一大臼歯データを抽出し、上顎歯列データを入力として、前歯および臼歯を自動的に抽出するようなAIシステムを深層学習により構築した。また、抽出した上顎中切歯と上顎第一大臼歯について、相同モデル化を用いて形態の評価を行った。今後、専門医の経験を実装させ、三次元デジタル模型データから歯科的問題を抽出するAIシステムの構築を行う予定である。

 

 

口腔内画像から歯周ポケット深さを推定する深層学習モデル
~歯周病診断AIの開発へ向けて~

柏木 陽一郎1、森山 雄介2、生川 由貴1、Lee Chonho3、伊達 進3、野崎 一徳 4、村上 伸也1
1.大阪大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座 口腔治療学教室
2.大阪大学大学院情報科学研究科応用メディア工学講座
3.大阪大学サイバーメディアセンター先進高性能計算機システムアーキテクチャ共同研究部門
4.大阪大学歯学部附属病院医療情報室

 

深層学習による口腔内写真の画像認識を歯周病のポケット深さの推定に応用することが歯周病のスクリーニングに繋がり、患者自身の歯周病に2005年〜2018年までに大阪大学歯学部附属病院歯周病診療室に来院した1,333人の歯周病患者の初診時の口腔内写真と一致して取得した歯周組織検査のポケット深さ(PD)の値を医療情報システムのデータウェアハウスより抽出した。その中で、正面観の口腔内写真の#12〜22の4歯に対して、物体検出モデル YOLOv2を用いて歯と歯肉を認識させ、対応する6点法にて計測した歯周組織検査の値との関係を深層学習である畳み込みニューラルネットワークに学習させた。それらを元に、歯周組織について、PD≦2mmをnormal、6mm≧PDをabnormalとして2分類に判別する画像認識システムの性能評価を行ったのでその成果を報告する。

 

 

口腔粘膜疾患診断支援システム開発の現状について

平岡慎一郎1、川村晃平1、Lee Chonho2、吉川隆士2、鈴木博文3
Peiying(Colleen) Ruan3、秋吉圭輔4、野崎一徳5、田中晋1、鵜澤成一6
古郷幹彦1
1.大阪大学大学院歯学研究科口腔外科学第一教室
2.大阪大学サイバーメディアセンター先進高性能計算機システムアーキテクチャ共同研究部門
3.NVIDIA合同会社エンタープライズ事業部メディカルデベロッパーリレーションズ
4.大阪大学工学部電子情報工学科
5.大阪大学歯学部附属病院医療情報部
6.大阪大学大学院歯学研究科口腔外科学第二教室

 

最近のニュース報道もあり、口腔がんの一般市民への周知も進んでいるようだが、初期の口腔がんにおいては、口内炎に類似した臨床所見を呈することがあり、専門外の医療者による見過ごしもしばしば経験する。口腔内は自身で開口すれば観察可能であり、他領域のがんと比して早期発見が可能であるにもかかわらず、実臨床においては、発見時にはすでに根治治療が不可能なほど進展していることが少なくない。現在、がん研究は原因遺伝子の探索やバイオマーカーが実用化に向けて進められてはいるものの、口腔領域への導入はまだ目処が立っていない。現在我々は、人工知能(artificial intelligence 、以下AI)による簡便な口腔がん診断支援システムを開発中である。本システムは、口腔粘膜疾患とおぼしき異常に対して撮影した写真をAIが解析することで、様々な口腔粘膜疾患の診断支援を可能とするものである。実用化に必要な精度にたどり着くためには、さらにより多くの口腔内写真を効率的に学習させることが必要である。そのため我々は産学協同かつ多施設共同研究を進めるに至った。本シンポジウムでは、現在我々のチームですすめている研究の概要について述べさせていただく。

 

 

人工知能を用いた頸部リンパ節自動検出の試み

中谷温紀1、隅田伊織2、笹井正思1、村上秀明1
1.大阪大学大学院歯学研究科放射線科
2.大阪大学医学系研究科

 

口腔癌の治療において、頸部リンパ節転移の有無は最も重要な予後因子の一つである。リンパ節の検出はCT検査が優れているが、400枚前後のCT画像を観察して、リンパ節の同定を行うため、多くの時間と労力が必要となる。そこで、“AIを用いた頸部リンパ節自動抽出”の可能性を調べることを目的として、MATLABを用いた学習器の開発とそれによる推論を行った。“教師あり学習”として、CT画像でのリンパ節を17種類に分類しラベリングした後、学習を施行すると、脈管を含んだ筋隙全体を選択する傾向が見られた。また、追加的に動静脈をラベリングし、同様の学習を施行したところ、認識率は向上するも、筋隙の一部を選択する傾向が見られた。現在は筋隙内の脂肪をラベリング中である。今回は、これらの現在までの成果と、実験中の研究内容について報告する。

 

 

秘匿データ解析のためのセキュアステージング技術
~歯科医療へのAI活用に向けた高性能計算機サービス~

渡場 康弘1, 伊達 進2, 吉川 隆士1, Lee Chonho1, 野崎 一徳3, 下條 真司2
1.大阪大学サイバーメディアセンター先進高性能計算機システムアーキテクチャ共同研究部門
2.大阪大学サイバーメディアセンター応用情報システム研究部門
3.大阪大学歯学部附属病院医療情報室 

 

本講演では、まず大阪大学サイバーメディアセンターの大規模計算機システムについて、本センターの最新のスーパーコンピュータであるOCTOPUS を中心にシステム構成やサービスを紹介する。大規模計算機システムは歯科医療のAI活用における高性能データ解析のために有用な環境であるが、実際に利用が難しいというのが現状である。その理由として、解析で扱う医療データのような秘匿性の高いデータは病院内から持ち出すことに様々な制限がある点、および大規模計算機システムの計算資源は基本的に複数ユーザへの共用サービスである点といったセキュリティの観点があげられる。そこで、秘匿データを大規模計算機システム上で安全にデータ解析を可能とする基盤の実現に向けて取り組んでいるセキュアステージング技術について発表する。

 

 

S2DHへの期待とNECの最新AIのご紹介

NEC中央研究所
中村祐一

 

 

高齢者の増加により、誤飲性肺炎などに代表される口腔内の劣化を原因とされる疾病への対応が求められています。AIと計算機の力を使ってこれらの対応を行うS2DHは低コストかつ効果的な解決策を提案できるプロジェクトとして大いに期待されています。一方、プロジェクトでよい成果を創出するためには、「あるべき姿」に対して、活動の方向性に関する継続的な議論が必要となります。本講演では、あるべき姿に対する期待を述べさせていただき、NECにおけるいくつかのAI事例を御参考としてご紹介します。この講演があるべき姿と方向性に関する議論のきっかけとしていただければ幸いです。

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